蚊が媒介する感染症とは?正しい知識と予防策を紹介

夏が近づくにつれ増える蚊。刺されると痒みや腫れが生じることがある蚊は、ときに大きな病をもたらす危険な生物でもあります
蚊が媒介する感染症は「蚊媒介感染症」と呼ばれます。国内では、2014年の夏に蚊が媒介した「デング熱」が流行したことから、その予防策や対策が重要視されはじめました。

小さいお子さんや赤ちゃん、妊婦の方は、蚊媒介感染症に感染することで重症化してしまうケースがあります。大切な家族を守るためにも、「たかが蚊」と軽視するのではなく、蚊媒介感染症の危険性の正しい理解が重要です。

この記事では、蚊媒介感染症の感染経路や概要、治療法や対策について詳しく解説します。適切な知識と予防策を把握し、蚊に悩まされない、快適な夏を過ごしましょう!

蚊媒介感染症の種類と主な症状

蚊媒介感染症とは「病原体を持つ蚊に人が刺されることでかかる感染症」です。蚊媒介感染症の多くは、特有のウイルスに感染することで発症しますが、マラリアだけは原虫によって引き起こされる疾患です(2020年5月時点)。

蚊媒介感染症には、海外で感染して国内にウイルスが持ち込まれる「輸入感染症」と、日本国内で感染する「国内感染症」があります。ほとんどの蚊媒介感染症は輸入感染によるものですが、前項のデング熱のように、これまで輸入感染症として扱われていたものも、国内感染の危険性があるため注意が必要です。

ここでは、厚生労働省が提示している「主な蚊媒介感染症」から、国内感染事例が報告されている2種と、今後国内での感染拡大の可能性がある2種の蚊媒介感染症について感染経路や症状を紹介します。蚊媒介感染症の対策をするためにも、まずは正しい知識を把握しておきましょう!

※原虫:単細胞の微生物で、人や動物に寄生することで重い病気を引き起こします。

参考:厚生労働省「蚊媒介感染症」

国内感染が報告されている蚊媒介感染症

現在、国内感染が報告されている蚊媒介感染症は日本脳炎、デング熱の2種です。

感染者数は世界で年間3〜4万人「日本脳炎」

日本脳炎とは、日本脳炎ウイルスに感染した蚊に刺されて感染・発症するウイルス感染症であり、深刻な急性脳炎を招く恐れがあります。日本脳炎ウイルスは、豚などの動物の体内で増殖し、その豚を刺した蚊が人を刺すことでウイルスが伝播します。

全世界では年間3〜4万人の患者報告がありますが、日本では積極的なワクチンの定期接種により、1966年をピークに減少。現在の発症件数は毎年10人以下まで抑えられているものの、小児や高齢者は日本脳炎発症後の重症化リスクが高く、精神障害などの後遺症が残る恐れがあるため、ワクチン接種による予防が重要です。

ワクチンは生後6ヶ月から接種可能ですが、地域によっては3歳が標準接種開始となっています。標準的には3歳2回、4歳1回の接種を受けたのち、9歳1回の接種が目安となっているようなので、地域に合わせたワクチンの定期接種を心がけてくださいね。

感染経路 豚→蚊→人
主な症状 潜伏期間は6~16日。発症した際の典型的な症例は、
高熱、頭痛、嘔吐、意識障害を示す「急性脳炎」です。
子どもの場合は、腹痛や下痢を伴う場合もあります。
小児や高齢者は重症化のリスクが高く
精神障害などの後遺症が残る恐れがあります。参考:NID 国立感染症研究所

2014年に70年ぶりの国内感染「デング熱」

デング熱とは、デングウイルスに感染した蚊に刺されることで感染・発症するウイルス感染症です。日本脳炎のようにウイルスを増殖させる動物が存在しませんが、デングウイルスは発症した人を刺した蚊が、新たに他の人を刺すことで感染するため、爆発的に患者が発生する危険があります。

デングウイルスを媒介する蚊は、ネッタイシマカとヒトスジシマカの2種ですが、国内に生息するのはヒトスジシマカだけで、ネッタイシマカの生息は確認されていません。

デングウイルスの媒介能力はネッタイシマカの方が圧倒的に高いといわれています。ところが、2014年に70年ぶりに国内感染が発生し東京を中心に162名の患者が報告された際の媒介蚊は、私たちの周りに普通にいるヒトスジシマカだったのです。ヒトスジシマカもデング熱の媒介能力が十分にあることを再認識させられた出来事でした。

一方で、成田空港などの日本の国際空港ではネッタイシマカの局所的な侵入が確認されています。これは熱帯・亜熱帯に生息するネッタイシマカが国際線飛行機で運ばれて日本に侵入していることを示唆するものです。もし万一、ネッタイシマカが日本で定着・増殖すると日本はデング熱の常在する国になる危険性があります

インフルエンザに似た症状を示すデング熱は、根本的な治療法やワクチンが存在しません。下記の表にて主な症状を紹介しますので、疑わしい場合はすぐに近くの病院を受診しましょう。

感染経路 人→蚊→人
主な症状 潜伏期間は多くの場合3~7日。
発症すると38℃以上の急激な発熱、頭痛や関節痛、嘔吐といった症状が現れます。
また発症後3〜4日後には発疹が胸や胴体、背中から始まり、手足や顔面にも広がっていくようです。
一部の患者は重症化し、デング出血熱やデングショック症候群を発症することがあるため、早期の適切な治療が必要です。参考:NID 国立感染症研究所

国内感染の恐れがある蚊媒介感染症

国内感染の恐れがある蚊媒介感染症は、ジカウイルス感染症とチクングニア熱の2種類です。この2種は、デング熱と同じヒトスジシマカがウイルスを媒介します。ヒトスジシマカは日本にも多く生息しているため、輸入感染を起点に国内での感染拡大が危惧されています。

妊婦の方は要注意、「ジカウイルス感染症(ジカ熱)」

ジカウイルス感染症(ジカ熱)は、ジカウイルスに感染した蚊に刺されることで感染・発症するウイルス感染症です。主に中南米、アフリカ、東南アジアでの流行が多くみられます。人の往来によって、デング熱のように日本国内にジカウイルスが持ち込まれ、感染が拡大する恐れがあります。

感染しても発症する方は全体の2割程度にとどまり、ほとんどの場合は軽症で済みます。ただし、ジカウイルス感染症を発症した方の中には、稀に神経症状をきたすギラン・バレー症候群や、妊婦が感染することで、お腹の赤ちゃんにも影響が及び、小頭症児という先天性障害を起こす危険性があります。

ジカウイルス熱は輸血や性交渉から感染する恐れもあるため、子供はもちろん、大人の感染も要注意です。ジカウイルス感染症を予防するワクチンや治療薬はないため、蚊に刺されないための事前予防が重要になります。

感染経路 人→蚊→人
主な症状 潜伏期間は2〜12日。発症すると軽度の発熱、発疹、結膜炎、関節痛、頭痛などを引き起こします。
通常症状は軽く、ほとんどの場合発症から2~7日程度で回復します。
しかし妊婦の方が感染すると胎児へ感染し小頭症などの先天性障害を起こす可能性があるため、注意しましょう。参考:政府広報オンライン「ジカウイルス感染症(ジカ熱)予防のポイント」

長期の関節痛「チクングニア熱」

チクングニア熱は、チクングニアウイルスに感染した蚊に刺されることで感染・発症するウイルス感染症です。デング熱・ジカウイルス熱と同じくヒトスジシマカがウイルスを媒介します。現在、チクングニア熱を予防するワクチンや治療薬はありません

「チクングニア」とは、アフリカの現地語で激しい痛みのために「体をかがんで歩く」という意味の言葉に由来します。多くの場合、軽症で済みますが、関節の痛みが月単位、年単位で続くことがあります。

感染経路 人→蚊→人
主な症状 潜伏期間は3〜12日。
発症すると急性の発熱と関節痛、発疹などが起こり、
急性症状がおさまったあとも、関節痛は数週間から数カ月にわたって続く場合があります。

蚊媒介感染症には、ここまで紹介したものの他にもマラリアやウエストナイル熱、黄熱などがあります。いずれも国内感染の可能性は低いですが、輸入感染する恐れは十分にあるため、海外への渡航の際には十分に注意しましょう。

蚊媒介感染症を招く蚊の種類と生態

蚊媒介感染症をもたらす蚊には、どのような種類がいるのでしょうか。ここでは日本に生息している蚊について紹介します。また蚊の生態を正しく理解し、事前に繁殖を抑えましょう!

日本には130種類もの蚊が生息!

世界には約3000種類もの蚊がおり、日本にはそのうち約130種類の蚊が生息しています。中でも私たちの生活に密接に関係している蚊は、雑木林に生息する「ヤブカ」と、家の周りや屋内に侵入する「イエカ」の2つの仲間です。ヤブカは昼から夕方にかけて、イエカは夕方から明け方にかけて吸血します。

この2つの仲間の中でも、日本に広く生息しているのが、ヒトスジシマカ、アカイエカ、チカイエカです。

・ヒトスジシマカ

小型で白黒の縞模様をした、通称「ヤブ蚊」です。その名のとおり、昼間に草むらやヤブ、公園、人家などで見られることが多く、成虫の活動期間のピークは夏場です。デング熱・ジカウイルス感染症・チクングニア熱の媒介蚊でもあり、本州、四国、九州、沖縄に生息しています。

・アカイエカ

赤褐色で、腹部に黄白色の横帯がある蚊です。屋内で見かけることが多く、昼間はあまり活動せずに家の壁などに潜伏し、夜になると血を吸うために活動します。成虫の主な活動期間は3~11月で、沖縄・小笠原諸島をのぞく全域で見られます。

・チカイエカ

アカイエカと近縁な種で、見た目の違いはほぼありません。昼夜を問わず1年間を通じて活動し、冬場には暖房があるオフィスビルなどの浄化槽で産卵します。九州、四国、本州に生息し、特に地下鉄などで多く見られます。

蚊はどこで繁殖する? 基本的な生態

蚊は、水のあるところに卵を産みつけます。卵はおよそ2~10日で卵から幼虫(ボウフラ)になり、それから10日ほどで成虫となって水中から出てきます

蚊がどんな水場を好むかは種類によって異なりますが、下水や防火用水、池、お墓の花立てなどに多く生息しており、特にヒトスジシマカ(ヤブ蚊)は、空き缶や空き瓶などにたまった少ない水の中でも増殖します。

成虫の寿命は、およそ2~3週間。人の血を吸うのは蚊のメスだけで、普段は花の蜜などを吸って生活していますが、産卵のための栄養源として血を探し求めます。

蚊媒介感染症の正しい治療法と対策

蚊媒介感染症のうち、マラリアについては「抗マラリア薬」という薬があるものの、日本でも感染例のあるデング熱や日本脳炎に関しては専用薬が存在せず、症状を緩和するための対症療法が中心となります。

また、日本脳炎以外に蚊媒介感染症を予防するワクチンはありません。つまり蚊媒介感染症から家族や自らを守るには、蚊に刺されない対策を行うほか、できるだけ蚊を発生させず、寄せつけないことが重要です。

屋外での対策

屋外で蚊に刺されないようにするためには、長袖や長ズボンなど肌の露出が少ない服装をするほか、虫よけ剤を使用するのも効果的です。一般的な虫よけ剤には「ディート」という成分が含まれているものが多く、子どもの場合は年齢に応じて1日に使用できる回数に制限があるため、注意が必要です。

一方、「イカリジン」という成分が含まれている虫よけ剤は、小さい子どもにも使用回数制限なく使用することができます

屋内での対策

蚊を屋内に入れなくするには、ドアの開け閉めを極力少なくしたり網戸を利用して、意識的に蚊の侵入を防止しましょう。ただし、蚊は多少の隙間からでも侵入が可能で、人の服について侵入する場合もあります。そのため、蚊を対象とした虫よけ剤を使用するなど、蚊を寄せ付けない対策が重要です。

設置型の虫よけ剤を屋内に置いたり、吊り下げ型の虫よけ剤を玄関先やベランダなどに吊るすことが効果的です。

蚊を発生させない、繁殖場所への対策

また、蚊の繁殖場所を減らしたり、こまめに掃除をするなどして、蚊を発生させないことも大切です。ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)は少量の水でも増殖するため、庭やベランダに植木鉢の皿やじょうろ、空き缶や空き瓶を放置することは避けましょう。水槽や池など撤去できない水たまりがある場合は、定期的に清掃をしたり、薬剤を利用したりして蚊の発生を抑えましょう。

大人から子どもまで使える虫よけ剤で感染症を防ごう

蚊が媒介する感染症は、ときに重症化し、命を落とす危険があります。まずは蚊媒介感染症の正しい理解と事前の対策を徹底しましょう。改めて、蚊媒介感染症を防ぐポイントは以下の3つです。

・蚊に刺されないようにする

・蚊を発生させない

・蚊を寄せ付けない

これから夏に向けて蚊が徐々に増えていきます。虫よけ剤も活用しつつ、大切な子どもや自分、家族を蚊から守ってくださいね。

レック株式会社

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